「飲む日焼け止め」を調べたら、「塗るものの代わりになる」と書いた論文が1本もありませんでした
そう書いていないのは、売っている側の研究者たちです
塗り直せない日に、あれを飲めばいいのか
真夏の朝。日焼け止めは塗った。でも、これから一日外にいる。塗り直す時間なんて、たぶん無い。
そういう日のために、飲むタイプのものを買った人は多いと思います。ドラッグストアの棚にも、SNSにも、「塗るのを忘れても大丈夫」という空気が漂っています。
では、それは何をどこまで確かめた上で言われているのか。論文を open してきました。
「塗るものの代わりになる」と書いた論文は、売る側の研究にも1本もありませんでした
先に、いちばん大事なことを書きます。
1. 効果はゼロではありません。 企業と無関係な大学病院の試験でも、「肌が赤くなり始める紫外線の量」が29%増えたという結果が出ています。これは再現しています。
2. ただし、上がり幅は2〜3割です。 近年の試験で報告されているのは +8%〜+30% の範囲でした。
3. そして、論文の結論は、揃って「adjunct(塗るものの補助)」でした。 これを書いているのは、このブログのような批判者ではありません。サプリの企業が資金を出した試験の結論にも、そう書いてあります。
「塗るのの代わりになる」と書いた論文は、探した範囲で1本もありませんでした。売る側の研究を含めて、です。
順番に見ていきます。
研究では何がわかっているのか
まず、この分野で何が「測られている」のかを知ってください
飲むタイプの研究で測られているのは、ほとんどが MED(最小紅斑量) という数字です。肌が赤くなり始めるまでに、どれだけの紫外線を浴びられるか、という量のこと。これが上がれば、「赤くなりにくくなった」と言えます。
覚えておいてほしいのは、測られているのは「赤み」であって、「シミ」でも「シワ」でもない、ということです。ここが後で効いてきます。
企業と無関係な試験でも、MEDは29%上がった
デンマークの大学病院のチームが行った試験があります。
参加者は健康なボランティア47人。肌タイプI〜III(=色白の欧州の人が中心)。デンマークの人です。 ポリポディウム・ロイコトモス(シダ植物の抽出物。飲むタイプの中身としてよく使われます)を1日480mg、30日間飲んでもらいました。
- MEDが29%増加(p=0.00018)
- 比較対象にしたニコチンアミドのほうは、MEDに変化なし(p=0.533)
この試験、著者9名の全員が「利益相反なし」と申告していて、所属はすべて大学病院と大学です。 企業の名前が1つも出てきません。このテーマでは貴重な試験です。
ここで話が終われば、いい話でした。終わりません。
同じ試験で、DNAの傷は動きませんでした
同じチームは、紫外線でできるDNAの傷(チミンダイマー)も測っていました。皮膚を生検して、さらに尿でも測っています。
- 皮膚でも尿でも、DNAの傷は有意に減りませんでした
翌年、同じチームがUVA(波長の長い紫外線)でも同じことをやりました。参加者は健康なボランティア50人、肌タイプI〜III、同じくデンマーク。 ランダム化した試験です。
- MEDは26%増加(p=0.0002)
- DNAの傷は、皮膚(p=0.15)でも尿(p=0.30)でも、動きませんでした
赤みは減った。DNAの傷は減らなかった。 2つの試験で、同じことが起きています。
著者自身が、論文の結論にこう書いています。「今後の研究は、この結果と、皮膚がん予防効果との食い違いを調べるべきだ」。分かっていない、と研究者が自分で書いている。ここを飛ばして「DNAを守る」と宣伝するのは、論文より先を言っています。
日本の「飲む日焼け止め」の中核成分は、誰が調べたのか
日本で売られている飲むタイプの多くが、ニュートロックスサン(ローズマリーとシトラスのポリフェノール)を中核成分にしています。その主要試験を開きました。
参加者はイタリアの女性90人。平均約52歳。肌タイプI〜III(うち約6割がタイプIII)。 プラセボのカプセルを使った盲検試験で、設計自体はしっかりしています。
- MEDが +29.8%(100mg・2か月時点)
- その試験で、目尻のシワの深さが −14.8%(p=0.0000)と報告されました
- 100mgと250mgで差がなく、100mgで頭打ちでした
シワの数字が出てきたので、はっきり書いておきます。これは「その試験の参加者(平均52歳のイタリア人女性90人)で、そう測れた」という報告です。 ここから先、読者のあなたの肌の話に接続することは、しません。それは論文が言っていないことだからです。
そして、この記事でいちばん書きたかったのは、その先です。
全文の資金提供の欄を開くと、こう書いてありました。
「This study was funded by Monteloeder S.L. and Nutrafur S.A. Monteloeder was involved in the design of the study protocol and provided the test products samples.」
(この研究は Monteloeder S.L. と Nutrafur S.A. の資金提供を受けた。Monteloeder は試験プロトコルの設計に関与し、試験製品のサンプルを提供した)
Monteloeder S.L. は、ニュートロックスサンの製造元です。 資金を出しただけではなく、試験の設計にも関与していると、論文自身が書いています。
著者の所属も見ました。8名のうち、1名が Monteloeder S.L.、2名が Nutrafur S.A.(原料企業)、3名が Complife Group(受託試験会社)でした。
これは「だから嘘だ」という話ではありません。業界資金の試験がすべて間違っているわけではありません。 ただ、この事実を知った上で数字を読むのと、知らずに読むのとでは、違います。 売り場のPOPには、この一行は書いてありません。
もう1本、企業が資金を出した試験。その結論を読んでください
スロベニアの試験です。参加者は色白の54人(各群27人)、肌タイプI〜III。 ランダム化・二重盲検・プラセボ対照——このテーマで最も設計が固い部類です。8週間。
- MEDが +23.8%(p<0.05)。ただし有意になったのは8週時点で、2週時点では差がありませんでした
- 赤みの強さは −46.2%(p<0.0001)
- 色素沈着(日焼けによる色の濃さ)は、プラセボ群と差がありませんでした
この試験の資金提供元は Tosla d.o.o. という企業です(資金提供者は設計・解析・執筆に関与していないと申告しています)。
その企業資金の試験の、結論の一文がこれです。
「supports oral supplementation as an adjunct to topical photoprotection」
(経口摂取が、塗る光防御の補助として有用であることを支持する)
adjunct。補助。 代替とは書いていません。売る側の研究者が、自分の論文の結論で、そう書いています。
2024年の総説も同じでした。「systemic photoprotection should be used as an adjunctive measure to topical photoprotection(全身性の光防御は、塗る光防御への補助的手段として使われるべきである)」。
ここまでに出てきた数字を、並べます
飲むタイプで、MED(赤くなり始める紫外線の量)はどれだけ上がったのか
単位: MEDの上昇率(%)
ただし、ここまでは言えません
1. 「効かない」とは書けません。
MEDの上昇は、企業と無関係な試験でも再現しています。「宣伝が言い過ぎている」ことと、「効果がない」ことは、まったく別のことです。 後者を主張できるデータを、私たちは持っていません。
2. 「SPF◯相当」と書けません。換算した論文が見つからなかったからです。
読者がいちばん知りたいのは、たぶん「で、これはSPFいくつ分なの?」でしょう。探しました。
```
(oral OR systemic OR dietary) AND (photoprotection OR photoprotective)
AND ("sun protection factor" OR "SPF equivalent")
```
返ってきたのは30件です。0件ではありません。 上位20件を開きましたが、中身は塗る日焼け止めの処方の研究、総説、口紅のSPFを測った論文などで、飲むサプリの効果をSPFに換算したものは1本もありませんでした。 30件すべてを見たわけではないので、そこは正直に書いておきます。
だから、このブログは「SPF◯相当」と書きません。論文が言っていない数字を、こちらで作ることになるからです。
書けるのはここまでです。飲む試験で動いたのは「MEDが2〜3割上がった」まで。 その数字が塗る日焼け止めの何に当たるのかを、人で確かめて換算した研究には、たどり着けませんでした。
3. 経口と外用を直接比べた試験も、見つかりませんでした。
```
oral supplement AND topical sunscreen AND (compared OR comparison OR versus)
AND (erythema OR "sun protection factor")
```
返ってきたのは1件でした。 そしてその1件は、比較試験ではありませんでした。対照群もプラセボも無い、30人の非盲検試験です。しかも著者6名のうち5名が ISDIN 社(日焼け止めなどを扱う企業)の社員でした。その試験でのMEDの上昇は +8.1% です。
4. 年単位で、シワや皮膚がんを見た試験は見つかりませんでした。
飲むタイプで測られているのは、30日・8週・12週といった短期の代理指標(MED、赤み、DNAマーカー)ばかりです。検索では5件が返ってきましたが、中身は30日のMED試験、56日の試験、UVAのDNA欠失を見た短いレター、1997年の急性日焼けの試験、そして日光角化症の患者34人(平均75.7歳)に、光線力学療法の補助として使った6か月の試験でした。健康な人を年単位で追って、シワや皮膚がんがどうなったかを見た試験は、この5件の中にありませんでした。
ここが、塗るほうとの決定的な差です。塗る日焼け止めには、903人を4.5年追いかけたランダム化比較試験があります。しかも、その試験で使われたのはSPF15+でした。飲むほうに、それに相当する試験が見当たりません。
5. 1997年の試験だけ、桁が違います。
古い試験(n=21)は「経口摂取後、MEDが 2.8倍」と報告しています。近年の試験の「+2〜3割」と、まるで違う数字です。どちらが正しいのかは、判断できません。桁違いに良い数字が出ている古い小さな試験を、単独で引用しないこと。 それだけは言えます。
6. 参加者は、ほぼ全員が色白の欧米の人です。
ここまで挙げた試験の参加者は、肌タイプI〜III。イタリア、デンマーク、スロベニア。アジア人を含む試験は1本だけ見つかりました(アジア人と白人の計110人)。日本人の肌でどうなるかは、このデータからは分かりません。 そして「日本人には効かない」根拠にもなりません。
飲む日焼け止め。言われていることと、論文に書いてあったこと
| よく見かける言い方 | 論文を開いて確認できたこと | |
|---|---|---|
| 塗るものの代わり | 塗り直せない日は、これを飲めばいい | 「代わりになる」と書いた論文は、売る側の研究を含めて1本もなかった。企業が資金を出した試験の結論も「adjunct(塗るものの補助)」 |
| SPF への換算 | SPF◯相当 | 検索で返った30件のうち上位20件を開いたが、飲むサプリの効果をSPFに換算した論文は1本もなかった |
| DNA の傷 | DNA を守る | MEDが上がった同じ試験で、DNAの傷は皮膚(p=0.15)でも尿(p=0.30)でも動かなかった。著者自身が「この食い違いを今後調べるべきだ」と書いている |
| 色素沈着(色の濃さ) | 焼けなくなる | スロベニアの試験で、色素沈着はプラセボ群と差がなかった |
| 「MEDが2.8倍」 | MED が2.8倍になる | 1997年・n=21 の試験の数字。近年の試験で報告されているのは +8%〜+30% |
| 赤くなりにくさ(MED) | 赤くなりにくくなる | 企業と無関係な大学病院の試験でも MED は +29%(p=0.00018)。再現している |
日常への生かし方
研究の話は、ここまでです。ここからは提案です。 以下は論文が言っていることではなく、論文を読んだ上でのこのブログの提案です。境目をはっきりさせておきます。
1. すでに飲んでいるなら、やめる理由はありません。ただし、塗るのをやめる理由にもなりません。
これが唯一いちばん大事な行動です。飲むタイプを「塗り直しの代わり」にしている人がいたら、その一点だけは変えてください。 論文の結論が、企業資金のものまで含めて全部「補助」だからです。売っている側でさえ「代わりになる」とは書いていません。
2. 「SPF◯相当」と書いてある広告を見たら、それは論文より先を言っています。
これは、あなたが今日から使える判断の道具です。飲むサプリの効果をSPFに換算した研究に、私たちはたどり着けませんでした。だから、その数字がどこから来たのかを、書いた側が説明できるはずです。説明が無い数字は、根拠より先を言っています。
3. 買うか迷っているなら、先に「塗る量」を見直したほうが、根拠があります。
日本人女性が顔に塗る乳液タイプの日焼け止めの実測量は、SPFを測るときの基準量の約15%でした。手元の日焼け止めを基準量きちんと塗ることには、4.5年・903人の裏付けがあります。 飲むタイプに新しくお金を払う前に、そちらが先です。順番の問題です。
4. それでも試すなら、期間と、見る場所を、先に決める。
期待していい場所は「赤くなりにくさ」です。 試験で動いたのはそこ(MED、赤み)でした。動かなかったのはDNAの傷、そしてスロベニアの試験では色素沈着(日焼けによる色の濃さ)もプラセボと差がありませんでした。「焼けなくなる」を期待して買うと、期待した場所と違う結果になります。
そして、効果が出たとされる試験の期間は8週間以上です(スロベニアの試験では、2週間の時点では差が出ていませんでした)。2週間飲んで「効かない」と判断するのも、8週間試して何も感じないのに惰性で続けるのも、どちらも根拠がありません。 買うときにカレンダーへ終了日を書いておく。それだけで、判断を先送りせずに済みます。
5. 用量について、こちらから「◯mg飲みましょう」とは言いません。
言えるのは、試験で使われた量だけです。ポリポディウム・ロイコトモスは480mg/日(30日)、ニュートロックスサンは100mgと250mgで差がなく、100mgで頭打ちでした。「多く飲むほど効く」を裏付けるデータは、この範囲では出ていません。 増量を勧める売り文句を見たら、その根拠を聞いていい場面です。
気をつけたいこと
- ここで紹介した試験の参加者は21〜110人、期間は30日〜12週間の小規模・短期です。この規模で安全性の結論は出せません。 「副作用の報告がなかった」と書かれた試験はありますが、それは数十人・数か月の話です。
- 飲み合わせや持病がある方、妊娠中・授乳中の方は、自己判断せず医師・薬剤師に相談してください。サプリメントは食品ですが、体に入るものです。
- 屋外に長時間いる日は、飲んだかどうかにかかわらず、帽子・日陰・衣類のほうが確実です。これは論文の話ではなく、常識の話として。
まとめ
- 飲むタイプで測られているのは、ほぼすべて MED(赤くなり始める紫外線の量) です。企業と無関係な大学病院の試験でも +29% 上がり、再現しています。効果はゼロではありません。
- 同じ試験で、DNAの傷は動きませんでした。 著者自身が「この食い違いを今後調べるべきだ」と書いています。
- 「塗るものの代わりになる」と書いた論文は、探した範囲で1本もありませんでした。 企業が資金を出した試験の結論にも「adjunct(補助)」と書いてあります。日本の中核成分ニュートロックスサンの主要試験は、成分メーカーが資金を出し、試験の設計にも関与していました。
この記事で、答えを出せなかったこと
「日本人の肌で、どうなるのか」が分かりませんでした。
参加者はイタリア、デンマーク、スロベニア。肌タイプI〜III。アジア人を含む試験は1本だけで、しかもその論文の数値はアブストラクトに書かれておらず、確認できていません。紫外線に対する反応は肌の色で変わるのに、日本で売られているものの根拠が、ほぼ全部ヨーロッパの色白の人のデータです。
日本のメーカーが日本人で試験をしているのかどうか。もし「うちの製品はこの試験がある」というものをご存じでしたら、教えてください。次に調べます。
調べてほしいことがあれば、送ってください。 このブログのネタは、そこから来ています。
参考文献
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- Nobile V, Michelotti A, Cestone E, et al. Skin photoprotective and antiageing effects of a combination of rosemary (Rosmarinus officinalis) and grapefruit (Citrus paradisi) polyphenols. Food Nutr Res. 2016;60:31871.(PMID: 27374032)※ Monteloeder S.L. と Nutrafur S.A. の資金提供。Monteloeder は試験設計に関与
- Keršmanc P, Pogačnik T, Žmitek J, et al. Effects of Eight-Week Supplementation Containing Red Orange and Polypodium leucotomos Extracts on UVB-Induced Skin Responses: A Randomized Double-Blind Placebo-Controlled Trial. Nutrients. 2025;17(7).(PMID: 40218997)※ Tosla d.o.o. の資金提供
- Granger C, Aladrén S, Delgado J, et al. Prospective Evaluation of the Efficacy of a Food Supplement in Increasing Photoprotection and Improving Selective Markers Related to Skin Photo-Ageing. Dermatol Ther (Heidelb). 2020;10(1):163-178.(PMID: 31797305)※ 著者6名中5名が ISDIN 社員
- Zundell MP, Katz A, Shah M, et al. The Utility of Oral Polypodium Leucotomos Extract for Dermatologic Diseases: A Systematic Review. J Drugs Dermatol. 2025;24(4):346-351.(PMID: 40196953)
- Hartmann D, Valenzuela F. Sunproofing from within: A deep dive into oral photoprotection strategies in dermatology. Photodermatol Photoimmunol Photomed. 2024;40(4):e12985.(PMID: 38845468)
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