習慣

「化粧水は3回重ねづけ」——その「3回」を確かめた試験を探して、見つかりませんでした

一番近い比較試験の結論は「塗る順番はほとんど関係ない」でした

洗面台で、同じボトルを3回押していませんか

化粧水は、1回さっとつけるだけじゃもったいない。手のひらに出して、顔になじませて、もう一度。ハンドプレスして、また一度。SNSでは「3回重ねづけ」「浴びるように重ねる」と紹介され、そのとおりにしている人は多いと思います。

朝の忙しい時間に、わざわざ3回。夜も3回。ボトルの減りも3倍です。

その「3回」に、根拠はあるのか。この記事は、その話です。

「3回重ねづけると良い」を確かめた試験は、探した範囲では見つかりませんでした

先に、わかったことを3つ。

1. 「化粧水を一度のケアで続けて3回塗り重ねると、保湿や浸透が上がる」——この手順をそのまま確かめた試験は、探した範囲では見つかりませんでした。 「重ねる回数」を振って比べた研究も、見当たりません。

2. 化粧水の「反復塗布」を扱った試験はあります。ただし、どれも「2時間ごと」や「1日2回・数日間」の話で、「洗顔後に続けて3回」とは別のことを測っています。

3. 「重ねる」ことに一番近い比較試験の要旨は、むしろこう書いています。「塗る順番は、保湿にほとんど影響しない」「クリーム1品だけでも、とくに乾燥肌では良好な保湿が得られた」。

順番に見ていきます。

研究では何がわかっているのか

「重ねる」に一番近い比較試験の結論は、「順番はほとんど関係ない」だった

中国の研究チームが、クリーム・化粧水・ミスト水を、単独と組み合わせで比べたランダム化比較試験があります(Journal of Cosmetic Science, 2016)。8つの塗り方を用意して、塗った後 2・4・6・8時間の肌の水分量の変化を追いました。

塗り方は、たとえばこうです。クリームだけ。化粧水だけ。クリームと化粧水を数分内に続けて塗る(順番を入れ替えた2通り)。クリームを塗って、そのあと2時間ごとに化粧水を足す。何も塗らない群。

結果です。

  • 何かを塗った区画は、どれも無塗布の区画より水分量が高くなりました(p<0.05)。
  • クリームと化粧水を続けて塗るとき、塗る順番は水分量にほとんど影響しませんでした。
  • そして乾燥肌では、「クリーム+2時間ごとに化粧水を反復」した区画と、「クリーム+化粧水を1回ずつ」「クリームだけ」の区画のあいだに、統計的な差は検出されませんでした(p>0.05)。

要旨の結論はこう締めくくられています。「クリームのみが、とくに乾燥肌では良好な保湿を得る、有効で手短な方法だった」。

ここで大事な但し書きを1つ。この試験の「反復」は、2時間ごとです。8時間のあいだに間を空けて塗り足す、という設計です。「洗面台で続けて3回塗り重ねる」ことを試したわけではありません。 そして、この論文の要旨には、参加者が何人で、何歳で、どこの国の人かが書かれていません。 そこは正直に置いておきます。

反復塗布で水分の指標は上がる。ただし「2日で頭打ち」だった

もっと古い、1989年のデンマークの研究です。健康な女性16人前腕に、水中油型の乳液を1日2回・7日間塗り、反対側の前腕を何も塗らない対照にしました。

肌の水分量の指標(電気の通しやすさ)は、塗り始めて2日で有意に上がり(p<0.001)、その後は頭打ちになりました。塗るのをやめても、2日後・7日後まで指標は上がったままでした。

読み取れるのは2つです。反復して塗ると水分の指標は上がる。でも、際限なく上がるわけではなく、早い段階で頭打ちになる。 これは「日単位で1日2回」の話であって、「一度に何回重ねるか」の話ではありませんが、「多く塗るほど比例して潤う」という素朴なイメージには、ブレーキをかけます。

「重ねると肌のつくりが変わる」ほうは、支持されていませんでした

日本の東北大学のチームが、保湿剤を前腕1日2回・5日間塗り、最終塗布から数日後まで測った研究があります(Dermatology, 2000)。健康な人とアトピー性乾皮症の人が対象でした(要旨に人数の記載はありません)。

反復塗布は、肌表面の水分の指標を数日間にわたって高く保ちました。一方で、角層(肌のいちばん外側)のバリア機能や、角層細胞の大きさ(肌の生まれ変わりの速さの目安)は、変わりませんでした。

つまり、反復して塗って動いたのは「表面の水分状態」までで、「肌のつくりそのもの」ではなかった、ということです。

化粧品会社が「多段階ルーティンは良い」と出した研究がある——ただし、書いたのは誰か

「重ねる・工程を増やす」ことを正面から扱った、数少ない試験があります(Journal of Cosmetic Dermatology, 2020)。女性49人を2群に分け、4週間。片方は5工程の「多段階ルーティン」(洗顔/化粧水/アイクリーム/美容液/朝夜クリーム)、もう片方は2工程の「シンプルなルーティン」(洗顔&朝クリーム)を使いました。

結果は、多段階ルーティンのほうが、水分量やシワの深さなどの多くの項目で上回った、というものでした。

ここが、このブログでいちばん書きたい一段です。この論文の著者9名は、全員が化粧品会社オリフレームの社員です。 そして要旨の冒頭に、著者自身がこう書いています。

「スキンケア・ルーティンの使用は化粧品業界が広く推奨しているが、単一製品の使用に対してこの慣行を支持する臨床的根拠は乏しい」

「根拠は乏しい」と自ら認めた論文が、自社製品5品のルーティンを支持する結果を出している。これは利益相反(研究する人と、その結果で利益を得る立場が、同じであること)そのものです。資金提供の欄に企業名が書かれていなくても、著者全員がその企業の社員なら、開示のあるなしにかかわらず、結果は割り引いて読むのが当然です。

そしてもう1つ。この試験が比べたのはルーティン全体(5品 vs 2品)です。「化粧水を重ねたから良くなった」とは、この設計からは切り出せません。 一度にたくさんの要素が変わっているからです。

ただし、ここまでは言えません

ここが、このブログでいちばん大事なセクションです。

1. 「化粧水を3回重ねると良い」は、確かめられていないだけで、「意味がない」ではありません。

回数を振って比べた試験が見つからない、というのが正確なところです。効果があるとも、ないとも、いまのデータでは言えません。「根拠が見つからないから無意味」と逆に断定するのも、同じ間違いです。

「重ねる・層をつくる」を化粧水で直接調べた研究を探しました。化粧水と『層/重ね』を掛け合わせた検索で返ってきたのは1件。ただしそれは、プリンターの「トナー」を使った流体デバイスの論文でした。 化粧水の話ですらありません。0件ではないので、中身まで確かめて書いています。

2. 化粧水そのものの総説・メタ解析は、見つかりませんでした。

「facial toner」「skin toner」と、総説・システマティックレビュー・メタ解析を掛け合わせて検索しましたが、0件でした。 化粧水という製品カテゴリを横断的にまとめた高いレベルの証拠は、探した範囲にありません。だから、この記事は個別の試験を1本ずつ読む形になっています。

3. 水分量のデータの多くは、顔ではなく前腕で測られています。

反復塗布で水分の指標が上がった試験(1989年・2000年)は、どちらも前腕での測定です。顔の皮膚は前腕より薄く、環境にもさらされます。前腕の数字を、そのまま顔の話として読んでいいとは言い切れません。

4. 測っているのは「水分量の指標」で、「浸透」ではありません。

ここで紹介した試験が測ったのは、肌表面の水分状態を表す物理量(電気の通しやすさなど)です。「重ねると奥まで入る」を測って比べた試験は、見つかりませんでした。

日常への生かし方

研究の話は、ここまでです。ここからは提案です。 以下は論文が言っていることではなく、論文を読んだうえでのこのブログの提案です。境目をはっきりさせておきます。

1. 「3回」という数字は、いったん忘れていい。回数より「最後にフタをするか」です。

「3回重ねる」の「3」に根拠は見つかりませんでした。一方で、比較試験の要旨は「クリーム1品でも、とくに乾燥肌では良好な保湿だった」と書いています。水分を足すこと(化粧水)より、それを逃がさないこと(乳液・クリームなどの油分でフタをすること)のほうが、データの裏付けはしっかりしています。 化粧水を3回に増やすより、最後に軽くフタをする1工程のほうが、たぶん効いています。

2. 化粧水を「重ねると際限なく潤う」とは思わないでいい。

反復塗布のデータは、水分の指標が2日で頭打ちになっていました。1回のケアの中でも、たぶん同じで、2回目・3回目の上乗せは、1回目ほど大きくないと考えるのが自然です。今より本数を増やす理由は、この研究群からは出てきません。

3. いま3回重ねていて、肌の調子がいいなら、やめる必要はありません。

これは「3回はムダだからやめろ」という話ではありません。化粧水を重ねること自体に害を示すデータもありません。気持ちがいい、続けたい、という理由で続けるのは、まったく問題ありません。 ただ、「3回でないと足りない」と義務のように感じているなら、その義務感の根拠は、探しても見つからなかった、ということです。

4. 新しい化粧水を「重ねづけ用」に買い足す前に、一度立ち止まる。

「重ねると浸透する」を確かめた試験は見つかりませんでした。確かめられていない使い方のために本数を増やすより、いま1本を使い切るほうに、お金の根拠があります。 判断の基準はこうです。「重ねると良い」と書いてある広告は、根拠より一歩も二歩も先を言っています。

気をつけたいこと

  • ここで紹介した試験の参加者は16〜49人、期間は8時間〜4週間と幅があります。多くが前腕での測定で、要旨に年齢や国が書かれていないものもあります。安全性や効果の結論を出せる規模ではありません。
  • 多段階ルーティンの試験は、著者全員が化粧品会社の社員でした。「ルーティンは良い」という結論は、その会社の利益と一致します。
  • 肌の状態に不安があるとき、ヒリつきや赤みが出るときは、重ねる回数を増やすより、まず刺激を減らして、必要なら皮膚科で相談してください。

まとめ

  • 「化粧水を一度に3回重ねると良い」を、そのまま確かめた試験は、探した範囲では見つかりませんでした。「重ねる回数」を比べた研究も見当たりません。
  • 一番近い比較試験の要旨は「塗る順番はほとんど影響しない」「クリーム1品でも、とくに乾燥肌では良好な保湿だった」。反復塗布のデータは「2日で頭打ち」でした。
  • 「多段階ルーティンは良い」と出した試験は、著者9名全員が化粧品会社の社員で、その論文自身が「ルーティンを支持する根拠は乏しい」と冒頭に書いています。

この記事では、「顔の皮膚で、化粧水の重ねづけの回数を振って比べた試験」には辿り着けませんでした。前腕のデータと、ルーティン全体の比較までです。もし「これを調べてほしい」があれば、それがこのブログの次のネタになります。

参考文献

  1. Yuanxi L, Wei H, Lidan X, Li L. Comparison of skin hydration in combination and single use of common moisturizers (cream, toner, and spray water). J Cosmet Sci. 2016;67(3):175-83.(PMID: 29394018)
  2. Serup J, Winther A, Blichmann CW. Effects of repeated application of a moisturizer. Acta Derm Venereol. 1989;69(5):457-9.(PMID: 2572123)
  3. Tabata N, O'Goshi K, Zhen YX, Kligman AM, Tagami H. Biophysical assessment of persistent effects of moisturizers after their daily applications: evaluation of corneotherapy. Dermatology. 2000;200(4):308-13.(PMID: 10894961)
  4. Messaraa C, Robertson N, Walsh M, et al. Clinical evidences of benefits from an advanced skin care routine in comparison with a simple routine. J Cosmet Dermatol. 2020;19(8):1993-1999.(PMID: 31840424)